コラム

青木明子 アートの力 Vol.11

本を伝える、人がつながる。

(2018年2月8日号掲載)

鴨江アートセンターの1階ロビーの本棚「BOOK FOR_.」には、アートやデザイン系の本が並んでいます。ここにある本はすべて、センターを利用する人々から寄付されたもの。貸し出しなどの管理はしておらず、気になった本は自由に閲覧することができます。

利用者の方から本を寄付してもらう時、私は次のようなお願いをしています。「あなたの本棚の中から『誰かが必要としていると思う本』を選んで置いてください」と。これには理由があります。

ある日、私は読み終わった本を、古書店へ売って処分しました。ところが、家に戻って本棚の前に立つと、なぜかむなしい気分に襲われたのです。

一冊の本が手に届くまでには、本当に多くの人々が関わっています。執筆者、編集者、校正者、印刷屋さん、装丁者、挿絵や図表を描いた人、本屋さん。印刷技術が発達していない頃は、手書きで写していた時代もありました。また、本を読むことで、時代や場所を越えた情報を今、手にすることができます。この「伝える」ことへのエネルギーは、本が持っている見えない力といえるでしょう。

私が感じたむなしさの正体は、人から人へと伝えるエネルギーを断ち切ってしまったことにありました。このような経験から、「BOOK FOR_.」ではセンターを訪れる皆さんが本を伝える場、つながる場にしたいと考えたのです。

本棚の周りでは、いくつもの小さなエピソードが生まれています。

機会を作っては、お気に入りの画集を見に来てくれるご婦人。1ページ1ページ、愛おしむように見入る姿は、本と人とが織りなす美しい光景です。ある高校生は、スペースデザインの本を見つけたことをきっかけにアートセンターの常連となり、施設を出入りするアーティストと話をするようになりました。

少し前からはセンターの学生スタッフが中心となって「ぼくの本箱、わたしの本箱」のプロジェクトが始まりました。賛同した人たちが、自分の好きな本を並べて、オリジナルの本棚を公開しています。それぞれの個性が分かって面白く、自分では図書館や本屋さんで見出すことのできない本との出会いを楽しんでいます。